ウイリアム・ショックレは1936年にMITで学位を取得した後、米国のベル研究所に入所した。ショックレはこのときすでに「真空管と同じ働きをする固定増幅器を作りたい」という研究テーマを立てていた。
当時ベル研究所の研究部長であったマービン・ケリーは「金属の接触によるリレーを用いた電話の交換機は、電子スイッチに置き換えるべきである」と固定増幅器の必要性を力説していた。
そうした背景にあり、ショックレは半導体のグループを作り研究をスタートした。実験をしては失敗を繰り返していた。1947年12月16日に、失敗の原因を追求するために、結晶表面を調べる実験を行っていた。その最中に、チームのメンバーであるバーデンとブラッテンによって偶然に点接触型トランジスタが発見された(しかし、一般にはクリスマスイブの前日である12月23日が特許上の発明日になっている)。
ショックレはこれを創造的失敗(creative failure)と呼んだ。新しいものを考えるには、失敗はつきものであり、原因を追求しつつ新しい考えについて再びチェレンジする、だがまた失敗といったことを行いながら生み出されていくことを意味する。
この点接触トランジスタは固定増幅器として実用的ではないが、固定増幅木野実現できる可能性の扉を開いたのである。すでに8年固定増幅器に執念を持ち続けていたショックレは何かすっきりしなかった。新しい方法、即ち点接触ではないものはないか考えていた。やがて接合型という新しい方式について、1947年12月31日に思いつき、考えに考えたあげくやっと概念が完成したのは翌年1月23日であった。
さらにこの理論が実際に実現したのは1年後の1949年4月7日である。
シリコンチップの内部で、III族の不純物元素の多い場所をP型領域、V族の不純物元素が多い場所をN型領域という。P、NはそれぞれPositive(正)、Negative(負)の頭文字である。
N型半導体をP型半導体で挟んだ構造のトランジスタをPNP型トランジスタという。同じように、P型半導体をN型半導体で挟んだ構造のトランジスタをNPN型トランジスタという。
○△□型トランジスタの○・△・□はそれぞれ、エミッタ領域・ベース領域・コレクタ領域の3つに対応している。
例:PNP型トランジスタは、エミッタ領域がP形、ベース領域がN形、コレクタ領域がP形である。
どちらとも電流・電圧の関係は同じであるが、電流の向きが逆であり、端子間電圧もプラスとマイナスが逆になる。
例:シリコンチップ
近代科学資料館で撮影
あるトランジスタがNPN型かPNP型なのか見分けるには、名称または記号を確認するのが一番楽である。
例えば、トランジスタの名称は次のように付けられる。
2S | 英文字 | 数字 | 英文字 |
2Sに続く英文字は、A,B,C,Dのいずれかで次のように決められている。
A | PNP型高周波用 |
B | PNP型低周波用 |
C | NPN型高周波用 |
D | NPN型低周波用 |
ただし、低周波用と高周波用の区別はそれほど厳密ではない。
例:オーディオアンプにも2SAタイプや2SCタイプが多く使用される。
A,B,C,Dの右側に続く数字は登録順につける番号で、11から始めることになっている。
最後の文字は改良品種を示すもので、改良品種が出るごとに、A,B,・・・,Kまで付けられる。
左側がNPN型、右側がPNP型のトランジスタの回路図における記号である。Cはコレクタ、Bはベース、Eはエミッタを意味している。
例:バーチャル電子ブロックを利用した、トランジスタを用いたランプの点灯の実験
抵抗が接続されている端子をベース、電流が接続されている端子をコレクタ、下向きの矢印がある端子をエミッタと呼ぶ。
・アロイ(ally)とは合金のこと。アロイ型トランジスタとは、トランジスタのPN接合を作るのに、合金の作り方を利用するものである。
・N型ゲルマニウム(Ge)の単結晶の薄い板の両面に、P形不純物(わずか混ぜるとP型になるもの)のインジウム(In)の小さな粒を押し当てて、水素の中で600℃の高温に加熱する。すると、このインジウムの粒が溶けて、ゲルマニウム結晶の中に溶け込んでいくが、こうしてインジウムが入ってきた部分はN型ゲルマニウムだったのが、インジウムの入り込んだP型層になる。つまり、真中にN型、両側にP型というPNP型トランジスタを作られたことになる。
・このタイプのトランジスタは、1948年のショックレイの開発以来、70年ごろまで広く作られましたが、現在ではほとんど作られていない。
・プレーナ(planer)は平べったく作られるタイプのトランジスタ。
・アロイ型との大きな違いは、半導体基板の両面から下降するアロイと違って、このプレーナ型は片面からの加工で済むという点。この加工には、写真技術を利用した細かいフォトエッチングなどが活用されて、シリコン基板の表面に、一旦丈夫な酸化膜を作り、それに感光すると変質するフォトレジスト(感光樹脂)を塗ります。この上に必要な窓穴パターンを書いたマスクをかぶせてから紫外線を当てて感光する。これを現像処理すると、窓穴部分のレジスタが除去されて、顔を出した酸化膜を薬品で溶かすとシリコンが出現する。
これから不純物を作用させたり、もう一度酸化膜をかぶせたり、と何度も加工を繰り返して平べったいトランジスタのペレットができあがる。実際には10cm径くらいの薄板に何千個と同時に作られる。
・プレーナ型から改良されたもので、現在のトランジスタの主流となっている。
・エピタクシャル(epitaxial)とは、「結晶軸に沿って」という意味で、シリコン基板の結晶軸に沿って新しい結晶層を作りこむ技術である。
・例えば、気相エピタクシャルでは、P型とN型不純物の濃さなどを加熱しながら流すガスの成分を調整して細かく変えられている。おかげで違う結晶を組み込みヘテロ構造も作られている。
・大きな電流を扱うものを特にパワートランジスタと呼ぶ。
・本体には放熱用の金属板がついているのが特徴である。
・電流を増幅するために使うことができる。
・NPN型とPNP型のTRは動作原理は同じだが、トランジスタに印加する電圧とTRの端子電流の方向(極性)が反対になる。
・トランジスタの記号の円内の矢印は通常の動作におけるエミッタ電流の方向、即ち極性を表す。
[補講]ここで通常といったのは、特殊な場合で逆向きに流すこともあるからである。
特殊な場合を除いてはメリットが乏しく、不用意に逆電流を流すとTRが壊れる恐れもある。
・NAND回路の出力にトランジスタを繋ぐと、わずかなベース電流が増幅されて、大きなコレクタ電流となり、コレクタ側に繋いだLED(発光ダイオード)を点灯させることができる。
・トランジスタのベース・エミッタ間は(PN接合)ダイオードになっていて、整流作用がある。
[補講]PN接合とは、P形領域とN形領域の境界部分にごく薄い(1μmぐらい)層のこと。よって、トランジスタのエミッタ領域とベース領域の境目にひとつのPN接合があり、ベース領域とコレクタ領域の境目にもあるということ。そして、ベース・エミッタ間のPN接合をエミッタ接合、ベース・コレクタ間のPN接合をコレクタ接合という。
・PN接合に印加される電圧の極性に応じて順バイアスまたは逆バイアスと呼ぶ。
・トランジスタには2つのPN接合があり、各PN接合について順バイアスまたは逆バイアスの選択が許されるから、全部で4通りの組合わせがある。
動作状態 | エミッタ接合 | コレクタ接合 |
活性領域 | 順バイアス | 逆バイアス |
逆接続領域 | 逆バイアス | 順バイアス |
飽和領域 | 順バイアス | 順バイアス |
遮断領域 | 逆バイアス | 逆バイアス |
・今のトランジスタは高周波特性がよくなっているので、配線が長くなると、そのインダクタンス成分やストレー容量などで発振回路になってしまうことがある。
・ICとIBの比を直流電流増幅率といい、hEFと表記する。
これはトランジスタの増幅の性能をあらわすものである。ベース電流が何倍の大きさのコレクタ電流に増幅されるかを示す。
このhEFのランクによって、IBに対するICの値が変化するばらつきが発生する。
そのランクは次のように分かれている。
ランク | hEF |
O | 70〜140 |
Y | 120〜240 |
GR | 200〜400 |
BL | 350〜700 |
・周囲温度のTaが大きいとhEFが増える。これはPNP型・NPN型の区別なく成立する性質である。
1℃の温度上昇に対して、0.5〜1%ぐらいhEFが増加する。ただし、温度係数は品種によって異なる。
・最適な動作点にコレクタ電流を定めても、温度が上昇すると、コレクタ遮断電流やベース-エミッタ電圧が変化し、動作点が変動してしまう。一般に、ゲルマニウム・トランジスタではコレクタ遮断電流、シリコン・トランジスタではベース-エミッタ電圧が、それぞれ問題となる。
・温度が上昇し、コレクタ電流が増加すると、接合部温度が上昇し、さらにコレクタ電流が増加する。そして、ついにはトランジスタを破壊するようになってしまう。このような現象を熱暴走という。
素子に加えることのできる最大電圧や、流すことのできる最大電流などは決まっている。一瞬でもこの値を越えてしまうと、破壊の恐れがあるので注意が必要である。
・規格表のPCは、トランジスタの内部で発生する電力損失(コレクタ電力損失)のことである。
・元々熱に弱いトランジスタは、使用時には温まってしまうため、温度上昇という攻撃を受けることになる。
・PCは、この値以下を使えば、温度上昇したとしてもトランジスタの働きに支障を及ぼさないということを示す。当然周囲の温度も関係するので、周囲温度は25℃という条件がついている。
・例えば、エミッタ・コレクタ間電圧VCE=9Vで、コレクタ電流ICが2mA流れたとき、電力損失PCはいくらになるか求めてみる。
「電力=電流×電圧」より、次のように計算できる。
PC
=IC×VCE
=0.002×9 (∵2mA=0.002A)
=0.018W
2SC458の場合、PCの最大定格は0.2Wだから、もしICが10倍になったとしても許容範囲に収まることになる。
ところが、オーディオのスピーカーを鳴らすためのトランジスタになると、コレクタ電流が数Aになるものがあり、この場合は電力損失も10W前後の値になるので発熱量もぐんと大きくなる。そのため、トランジスタに放熱器を付けて、熱を上手に外部に逃がす工夫が必要となる。
エミッタ接地トランジスタの静特性を測定すると、次の図のようになる。
トランジスタを使用するとき、h定数と呼ばれるものを用いる。h定数には次のようなものがある。
トランジスタには増幅の作用があるが、トランジスタに入力電流を加えたときに、それがどのくらいに増幅されて出てくるかを表すのが電流増幅率である。
3つの電極のいずれかを接地させることによって、3種類の基本回路を作ることができる。
項目 | ベース接地 | エミッタ接地 | コレクタ接地 |
入力インピーダンス | 小 | 中 | 大 |
出力インピーダンス | 大 | 中 | 小 |
電流増幅度 | 小(≦1) | 大 | 大 |
電圧増幅度 | 大(負荷抵抗が大の場合) | 中 | 小(≦1) |
電力利得 | 中 | 大 | 小(ほぼ1) |
高周波特性 | 最もよい | 悪い | よい |
入・出力電圧位相 | 同相 | 逆相 | 同相 |
代表的な用途 | 高周波増幅 | 増幅(一般用) | インピーダンス変換 |
トランジスタには電流などを増幅する機能を持つ。増幅回路のほとんどが、真空管かトランジスタを利用して作られている。
例えば、プレーヤーのピックアップから取り出されるのは、音の波形をしたごく小さな電流なので、これをスピーカーからきちんと聞こえる音にするには、大きく増幅する必要がある。
トランジスタ回路にエネルギー源として直流を供給することを、バイアスを与えるという。
そのための回路をバイアス回路といい、VBEをバイアス電圧という。
B〜E間に与えたVBBはIBを流すためのものであるから、次の図のようにVBBを除いてもIBを流すことができる。つまり、回り込むことによって、電源がひとつだけでBEに電流を流せるわけだ。
多く用いられているバイアス回路に、電流帰還バイアス回路がある。この回路の動作は次の通り。
1:バイアス電圧VBEは、次の式で表すことができる。
2:温度の上昇によって、ICが増加すると、IEも増加し、VREも増加する。ところが、VRAが一定であるため、VBEが減少し、IBを減少させる。したがって、ICも減少する。
3:以上の動作により、この回路は温度変化によるICの変化をVBEに帰還させ、常にICを一定の値に保つ負帰還作用を持つ。
次に示すのはトランジスタのエミッタ接地回路である。
このベースに小さな電流変化を入れると、コレクタ電流はそれにつれて大きく変化する。つまり増幅されるのである。そのとき、ベースに電流を流しておくこと(これをバイアスをかけるという)を忘れてはならない。バイアスをかけないと波の形で半分が切れてしまうからである。適当なバイアスをかけておけばきちんと増幅(拡大バージョンの相似)されて出力される。
実際の回路では音の波形成分(低周波)に対する交流負荷と直流負荷の両方を考えて決めることになる。
バイアスの掛け方といっても色々ある。例えば、固定バイアス・電流帰還バイアス・自己バイアスなどである。
ブロック配置図
回路図
トランジスタを活性化させる(作動させる)ためには、ベース電流を流す必要がある。しかし、トランジスタは温度が高くなると、増幅度が大きくなる特徴を持つ。これでは設計どおりのベース電流を流していても、温度変化によりコレクタ電流が大幅に増えたり減ったりして、設計通りの動作をしなくなってしまう。
このために考えられたのが自己バイアス回路である。
自己バイアス回路ではベース電流がコレクタの抵抗を通して流れるようになる。コレクタ電流が増えると、ベース電流が減ることになる。すると、そのベース電流を増幅したコレクタ電流も減る。こうして、コレクタ電流は安定する。
この仕組みはフィードバックといわれる。自らをコントロールする、それが自己バイアスと呼ばれる所以である。
ブロック配置図
回路図
ブロック配置図
回路図
低周波増幅のトランジスタの前の段、また増幅して出てくる出力を次のトランジスタにというような信号を伝えるつなぎ方を段間接合【だんかんせつごう】という。
・段間接合に低周波トランスを使う方法がトランス結合である。
・低周波トランスは鉄心(普通パーマロイ、大型でケイ素鋼などの板を重ねてある)に1次側と2次側の2つのコイルを巻いたものである。1次コイルに低周波を流すと磁力線の変化がコアを通って2次コイルの中に流れる。すると磁力線変化につれて2次コイルに電流が作られる。この1次と2次のコイルの巻き数を変えるとインピーダンス(交流に対して抵抗として働く成分)を増減できる上、直流抵抗が小さいので能率がよく利得の高い増幅ができる。
・しかし、周波数によって特性が違ってきたり、歪んだりもしやすい。特に小さいトランスでは問題となる。
・段間接合に抵抗とコンデンサの組合わせを使う方法が抵抗接合である。
・トランス結合に比べて利得は低くなるが、簡単で安上がりにできるうえ、周波数特性のよいのが特長である。
次の図は実際の回路である。
これをh定数を用いた等価回路で表すと次の図のようになる。
これより、回路の増幅度および入出力インピーダンスを求めると次のようになる。
バーチャル電子ブロックにおいて、トランジスタのスイッチング作用によってランプの点灯を実験してみた。
ブロック配置図(リード線の端子を接触させない場合)
ブロック配置図(リード線の端子を接触させる場合)
回路図
電子機器の故障としては、トランジスタによるものが非常に多く見られる。
トランジスタの特性を表すパラメータは色々あるが、第1にそれが不良品かどうかを調べ、第2にhFEの値を調べることが有効である。
測定の種類 | テストに使う器具 | 内容 |
コレクタ電流・ベース電流の測定 | 電流計、可変抵抗、抵抗類 | |
hFEの静的測定 | トランジスタチェッカー | あらかじめ計器に決められた条件の基で、hFEを測定する。 |
特性の自動測定 | カーブトレーサー(オシログラフ、階段波発生器) | 測定条件を自動的に変えて、特性をブラウン管に表示する。 |
指なめテスト | テスター、指、唾 | 最も簡単なhFE測定法 |
回路電圧の測定 | エミッタ抵抗、コレクタ抵抗の電圧降下の測定 | トランジスタが正常なら電圧が降下する。トランジスタをはずさないで計れるのが長所。 |
ブロック配置図
回路図
・これはベース電流とコレクタ電圧を自動的に順次増加し、そのときのコレクタ電圧とコレクタ電流とをブラウン管に表示させる装置である。表示部にカーブが表示される。これを見れば、トランジスタの特性がわかり、同時に不良品かどうかの識別も行うことができる。
・これは多数のトランジスタを専門的に測定するための方法で、一般に使うには高級すぎる。
・この方法はトランジスタの特性を詳しく知ることはできないが、トランジスタが使えるかどうかの判定はできる。
・何よりも、手軽に測定できることが長所である。
・ポイントは、トランジスタはダイオード2個と同じということ。テスタの黒棒(−)には電気的に(+)、赤棒(+)には電気的に(−)が来ている。
・導通試験は次のようにやる。これはNPNの場合であり、PNPの場合は逆になる。
エミッタ、コレクタを調べる | エミッタに黒、コレクタに赤 | 導通があってはいけない |
エミッタに赤、コレクタに黒 | 導通がなければならない | |
コレクタ、ベースを調べる | コレクタに黒、ベースに赤 | 導通があってはいけない |
コレクタに赤、ベースに黒 | 導通がなければならない | |
エミッタ、ベースを調べる | エミッタに黒、ベースに赤 | 導通があってはいけない |
エミッタに赤、ベースに黒 | 導通があってはいけない |
・簡単なhFEの測定は次のようにやる。これはNPNの場合であり、PNPの場合は逆になる。
エミッタにテスターの赤、コレクタに黒をつなげる。指をちょっとなめてベースとコレクタに同時にさわる。そのとき、テスターが振れればOK。テスターのR×100レンジくらいにしておく。