目次 †
ロイの看護理論 †
- ロイは始めヘンソンの精神心理学に影響を受けて、自らの適応モデルを作り、1974年に発表した。
- しかしその後、システム理論の影響を受けて、サイバネティクス理論に基づいて自分の理論を改訂した(1984年)。
ロイ理論の基本的アイデア †
- 人間はいわばエアコン付きの部屋のようなものであるという。つまり、サイバネティクスによる自己恒常性維持のシステム理論であるというものである。
- エアコン付きの部屋の場合、まず外界(環境)から寒さや暑さという影響(刺激)が与えられる。それによって、室内温度は設定温度からずれていく。室温温度が設定温度からずれていくというのは、このエアコン付きの部屋というシステムが、外界(の変化)に負けてしまっていることである。外界の変化にも負けずに、自己の恒常性を維持するのが適応ということの意味である。つまり、この部屋というシステムが、維持しなくてはならない設定温度(適応のレベル)からずれているということである。
- 温度という刺激は適応レベル、即ち設定温度からのずれとしてエアコンのセンサーが感知する(入力)。この情報は、エアコンのコンピュータmに伝達される。コンピュータ内蔵のコントロール部は、温度のずれの方向と大きさ、つまり暑いのか寒いのか、またどのくらい暑いのか寒いのかによって、冷房するのか暖房するのか、またどのくらい強く作動するかを決定して、冷房装置かあるいは暖房装置へと命令を下す。この冷房あるいは暖房の効果を上げる機器(効果器)が作動して、冷気あるいは暖気が吐き出される(出力)。吐き出された冷気、あるいは暖気により室温温度が設定温度に近づくと、そのことは再びエアコンのセンサーが感知するところになる(フィードバック)。すると、エアコンは冷房あるいは暖房を弱めたり、運転を停止する。
- ロイの理論は適応モデルと呼ばれる。
- ここでいう「適応」とは、環境になじんでしまうことではなく、外界(環境)に抗って自己の恒常性を維持することである。
- 人間の環境への適応がうまくいかないとき、手助けするのが看護である。
- 看護は人間の適切な反応を増加させ、誤った(非効果的)反応を抑える。
- セルフケアが一人の人間にとどまらず、子供と母親といった人間群で行われる。また、システムの自己維持(適応)も、人間群でなされることもある。そのためロイは人間群がシステムのとなることもあると指摘した。
エアコンと人間の比較 †
| エアコン | 人間 |
入力 | 外気の影響 | 刺激 |
目標 | 設定温度 | 適応レベル |
受容器 | センサー | 心理的感知器官、知覚 |
中枢 | コンピュータ | 神経系・内分泌系、大脳を含む神経系 |
効果器の作動様式 | 冷房・暖房 | 生理的適応様式、他の3つの適応様式 |
効果器 | 冷房・暖房装置 | 生理的器官、心理・社会的行動器官 |
出力 | 冷気・暖気 | 生理的反応、心理・社会的反応 |
適応反応 †
エアコンには冷房・暖房という応じ手(適応様式)しかなかった。そのためエアコンのついた部屋では、室温しか恒常性の維持ができなかった。しかし、もし除湿・加湿の機能が付け加わったら、温度も一定に保つことができる。
人間という自己を維持しているシステムの場合は大きく分けて次の4つの適応の様式を持つ。
- 調整器による適応反応
- 生理的な適用様式
- 認知器による適応反応
- 自己概念様式
- 役割様式
- 相互依存様式
適用様式 | 維持する対象 | 関係世界 |
自己概念様式 | 私にとっての私 | 一人称的世界 |
役割様式 | 彼らにとっての私 | 三人称的世界 |
相互依存様式 | あなたにとっての私 | 二人称的世界 |
ロイの適用様式 vs. オレムの普遍的セルフケア要件 †
オレムの普遍的セルフケア要件 | ロイの適用様式 |
1.十分な空気摂取の維持 | 1.生理的様式 〇請撚 |
2.十分な水分摂取の維持 | 栄養 |
3.十分な食物摂取の維持 | G嘶 |
4.排泄過程と排泄に関するケアを提供 | こ萋阿筏拌 |
5.活動と休息のバランスを維持 | ニ姫 |
6.人間の生命・機能・安寧に対する危険を予防 | 2.自己概念様式 |
7.孤独と社会的相互作用のバランスを維持 | 3.相互依存様式 |
8.社会集団での人間の機能と発達の促進 | 4.役割機能様式 |
- ロイの理論の強みは、システム論の適用はもちろんであるが、自己概念を理論に導入したことである。
- 乳がんのため乳房切除を受ける女性が、女らしい体のイメージが崩れることに苦しみ、さらに「自分はもう女でなくなってしまう」と感じ悲嘆にくれるという事例が見られる。こうした事例は自己概念をという考え方を抜きにしては理解しがたい。
ロイ理論の限界 †
- ロイが用いた(ネガティブ・フィードバックによる)サイバネティクスでは、与えられた目標設定をシステム自身が変えていくことはできない。
- そうしたずれを抑え込んで、言われたとおり、設定された通りに動くのが、サイバネティクスの自動制御の機構である。
- つまり、もし人間が成長・発達・老化していくことを理論に盛り込もうとするなら、ネガティブ・フィードバックによって恒常性を維持するサイバネティクスのモデルを捨てるか、改良しなくてはならない。
- このことはロイ自身も気づいており、自己概念様式において発達を盛り込もうとした。しかしそうした部分的な導入をしても、このモデルは人間の成長・発達・老化・死は扱いきれない。
参考文献 †